【中島佑気ジョセフ】―走ることで、自分を超えていく。日本400m界の新しい光
【中島佑気ジョセフ】―走ることで、自分を超えていく。日本400m界の新しい光
■ 静かに燃える、長身スプリンター
身長191cm。すらりとした体に、落ち着いた声。取材で話す姿はどこか控えめで、派手さとは無縁だ。
けれど、スタートラインに立った瞬間、彼の全身からあふれ出す集中力は、見る者を一瞬で惹き込む。
――中島佑気ジョセフ。
2025年、東京で開催された世界陸上。
彼は日本人として34年ぶりに男子400m決勝の舞台に立ち、44秒44という驚異的な記録で6位入賞。
会場がどよめいたあの瞬間、日本陸上界は新しい扉を開いた。
■ 「自分の弱さを知っているから、強くなれる」
彼の歩みは、決して順風満帆ではない。
小学生の頃から陸上に打ち込みながらも、「自分は気持ちが弱い」「身体の使い方が下手」と、何度も壁にぶつかってきたという。
高校時代にはケガに苦しみ、思うように記録を伸ばせず、心が折れそうになった時期もあった。
それでも彼は走り続けた。
「結局、逃げても走りたくなる。走ることが、自分そのものだから」――そんな言葉が印象的だ。
■ 長い脚が描く、しなやかな走り
中島の走りは、美しい。
力強さの中に、どこか音楽的なリズムを感じる。
191cmの長身を活かした大きなストライドで、後半の100mにかけてグッと伸びる姿は、まるで弦を弾くようにしなやかだ。
本人も「無理に力を入れず、流れに乗る感覚が出てくると、身体が勝手に動く」と語る。
“速く走る”というより、“自然と速くなる”――そんな境地を求めているようだ。
■ 「走ること」だけじゃない彼の魅力
競技者としての彼を語るとき、忘れてはいけないのが“感性の豊かさ”だ。
中島は読書や絵、音楽にも深い関心を持ち、表現することそのものを楽しむタイプ。
「走ることも、表現のひとつだと思っている」と語る。
この言葉の通り、彼の走りには“伝える力”がある。
タイムや順位以上に、観る人の心を動かすものがある。
それはきっと、彼が陸上を「生き方」として選び、真摯に向き合ってきた証だ。
■ 日本記録を超えて、その先へ
2025年にマークした「44秒44」は、日本陸上史に刻まれる数字だ。
けれど本人は「記録はただの通過点」と淡々と言う。
その奥には、「もっと強くなりたい」という静かな炎が燃えている。
世界のトップ選手たちは、43秒台の世界でしのぎを削っている。
彼の目は、すでにその先を見据えている。
「自分が走ることで、誰かが“挑戦したい”と思ってくれたら、それが一番うれしい」
そう笑う姿が、とても印象的だった。
■ “心で走る”スプリンター
アスリートは、記録や勝敗で語られることが多い。
でも中島佑気ジョセフという人は、それだけでは語り尽くせない。
彼の走りには、人生の迷いや、希望や、優しさがにじんでいる。
「走ることは、自分と向き合うこと」――そう語る彼の目は、どこまでもまっすぐだ。
その瞳の先にあるのは、数字でもメダルでもない。
“自分の限界を超えた先に見える新しい自分”。
これからの彼の一歩一歩が、日本陸上界に新たな風を吹かせていく。
プロフィール
- 氏名:中島佑気ジョセフ(なかじま・ゆうきジョセフ)
- 生年月日:2002年3月30日
- 出身地:東京都
- 所属:富士通陸上競技部
- 専門種目:400m、4×400mリレー
- 主な成績:2025年世界陸上男子400m 6位入賞、日本記録保持者(44秒44)
- 趣味:読書・音楽・アート